子育てや人付き合いにおいて、「扱いやすい人」と「扱いにくい人」っていますよね。私は随分と長いこと、自分の扱いにくさに苦労してきました。
機嫌よく過ごしていて、愛嬌があって、ニコニコしていて、周りに人が自然と集まってきて……
そんな人に憧れるのに、実際の自分は、気難しくて、不安が強くて、すぐにパニックになってしまう……
どうしたら自分を乗りこなせるのか、どうしたらパニックに陥る前に気づいて立ち止まれるのか、どうしたら生きやすくなるのか。試行錯誤しつつ情報を集めていた中で出会ったのが、臨床心理士の村中直人さんでした。
村中さんは、「それぞれの人の脳神経は多様である」という立ち位置から発達障害を見つめている先生です。
「自分は異常な気がする」「どうしたら普通の人に擬態できるのか」と考えて発達障害の情報を集めていた私に、「脳神経的には”普通”って別にないからなぁ…」というスタンスでさまざまな情報を提供してくれました。
そんな村中先生が開催しているオンライン講座、発達障害サポーターズスクール。発達障害の支援者に向けた、学びの場です。めちゃくちゃおもしろいです。
たとえば、こんな講座があります。最高にしびれました。
「給食の時間に教室から逃亡する小2男子」を理解できるか
給食の時間になると、教室からこっそり逃げ出して、保健室に行ってしまう小2男子がいます。担任の先生が見つけて連れ戻そうとしても、嫌がって戻ろうとしません。「どうしたらいいんだろう?」と担任の先生は考え込んでしまいました。原因は何だと思いますか?
講座の中で、「解決策はまだ考えずに、できるだけ多く、原因の仮設を出す」ことが求められます。実際にやってみました。
原因を出来る限りたくさん、考えてみた
- 食べ物の匂いが苦手
- 給食にいつも嫌いな食べ物がある
- 食器の擦れる音が苦手
- 給食の班に嫌いな子がいる
- 給食の班のおしゃべりがうるさい
- 向かい合わせに座るときの視線が嫌だ
- 食事の気分ではない
- 食べ物が汚い感じがする
- 食べるときに話しかけられるのが嫌
- 牛乳をストローで飲む音が気持ち悪い
10個考えてみました。どれもありそうだし、5感の不快感を抑えたので、かなり網羅的に考えた気がします。これ以上はないんじゃない?と思いながら先生の解説を聞くと…
村中先生の解説を見て、考えモレに愕然とする
村中先生が「考えられる一部ですが…」と出した15個の仮設の網羅性に愕然とします。
- じっとしていることが苦手で、座っていられず外に出てしまう(多動性)
- 外に気になることがあって、衝動的に飛び出してしまう(衝動性)
- 教室がうるさいことに耐えられないから、逃げ出した(聴覚過敏)
- 食べることが苦痛のものがあるから、逃げ出した(味覚過敏)
- 食べ物の匂いが苦手で、教室から出た(嗅覚過敏)
- 給食を食べたら外出しても良い、というルールを理解できていない(社会的文脈把握の苦手、言語理解の不足、不注意)
- 給食の量が多すぎて食べることが苦しい(生理的要因)
- 担任の先生を困らせようとしている(対人関係の悪化)、もしくは逆にかまってほしい(注意引き行動)
- 片付けのタイミングなど、いつ何をすればよいかわからず、困って逃げ出した(見通しの困難)
- 他の子の何らかの行為(ルール破りなど)を見たくないから、教室から出た(システム化の衝動、こだわり)
- 保健室でやりたいことがある(別の行動の強化)
- 多人数の中で食べることが苦手(こだわり)
- 教室の机移動や、エプロンなどの洋服の変化が苦手(新規事象への苦手さ)
- 給食を食べるという行為に体力を使い、疲れた(生理的要因)
- これまでの給食の場面で体験したネガティブな行動を思い出してしまう(フラッシュバック)
漏れや重複が極力ないように、整理されています。
原因の仮設がたくさん想定できれば、追加情報から判断できる
ここまで整理できていれば、以下の情報がわかったときに、いろいろなことが判断できます。たとえば、追加情報として下記がわかったとします。
食べ物の好き嫌いはなく、だいたい何でも食べることができる。また、量の年齢相応に食べる。家庭では食事のトラブルは少ない。
ご家族に確認すれば、上記の情報は割と簡単に手に入れられます。これがわかった瞬間に、下記の仮設は「なさそうだ」と判断できます。
- 食べることが苦痛のものがあるから、逃げ出した(味覚過敏)
- 食べ物の匂いが苦手で、教室から出た(嗅覚過敏)
- 給食を食べるという行為に体力を使い、疲れた(生理的要因)
また、下記の情報がわかればどうでしょう。
授業中に抜け出してしまうことはあるが、実験や工作などの参加型授業に限られており、話を座って聞く形式の授業では目立った問題は見られない。
授業の様子を観察すれば、割と簡単にわかりそうな上記の情報。これがわかったら、下記の仮設もなさそうだ、と判断できます。
- じっとしていることが苦手で、座っていられず外に出てしまう(多動性)
- 外に気になることがあって、衝動的に飛び出してしまう(衝動性)
- 担任の先生を困らせようとしている(対人関係の悪化)、もしくは逆にかまってほしい(注意引き行動)
こうやって絞り込んでいって、残った仮設が怪しいぞ、と当たりをつけられるわけです。
「人間を理解する」とは、いろいろな視点から専門知識を用いて行うプロの技である
「給食の時間に逃亡してしまう小2男子」という問題にも、これだけ沢山の仮設が考えられます。そして、仮設をできるだけ沢山、網羅的に挙げるためには、経験と知識が必要です。
もっと勉強したいと思わせてくれる、おもしろい講座でした。ぜひご覧ください。
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